神経科学:ショウジョウバエにおけるニューロンの産生順とアイデンティティーを決める大域的な分子コード
Nature 657, 8130 doi: 10.1038/s41586-026-10797-w
機能的な神経回路の組み立ては、正確な分子的アイデンティティーと接続性を持つ多様な神経細胞タイプの生成に依存している。ニューロンの指定と配線に関する一般原理を神経系全体にわたって解き明かすには、その多様性の特性を体系的かつ高分解能で明らかにすることが必要であり、これは最近、単一細胞トランスクリプトミクスとコネクトミクスの進展によって可能になった。しかし、ニューロンの分子的アイデンティティーを回路の構造に結び付けることは、まだ大きな難問である。本論文で我々は、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)の感覚–運動回路の中心ハブである神経索の、高分解能の発生転写アトラスを提示する。このアトラスは、参照コネクトームと比べて総カバー率が38倍と大きく、広範な分子的多様性を捉えていて、成虫コネクトームとのロバストな対応付けを可能にする。我々は、神経索のニューロン多様性の基盤にある3つの発生原理を見いだした。1つ目は、神経産生のタイミングが分子的アイデンティティーの多様化を形作ることであり、胚期に産生されるニューロンは幼虫期に産生されるニューロンより急速に多様化し、これは成体コネクトームでも同様に認められている。2つ目は、全ての系譜のニューロンに共通する17の転写因子が、産生順を表す大域的な分子的アイデンティティーコードを構成することである。3つ目として、性特異的転写プロファイルをコネクトーム上にマッピングすることで、雌特異的なアポトーシスと転写多様性が性指定の重要な大域的駆動要因であることが突き止められた。このアトラスは、分子的アイデンティティーの重要な構成軸を明らかにすることで、神経回路の発生と進化を支える分子機構を解析する道を開く。

