がん治療:MAPKが駆動する上皮細胞の可塑性が大腸がんの治療抵抗性をもたらす
Nature 650, 8102 doi: 10.1038/s41586-025-09916-w
大腸上皮は迅速に更新しており、損傷を受けた後に顕著な再生能力を持つ。大腸がん(CRC)では、この再生能力を使って、上皮の可塑性がもたらされる。CRCでは発がん性のMAPKシグナル伝達が広く見られ、KRASとBRAFの両方に高頻度で変異が見られ(前者は40~50%、後者は10%)、この経路を阻害すると臨床的に治療抵抗性が誘発されるのが一般的である。今回我々は、KRAS阻害薬の開発やBRAF阻害薬併用療法の承認を踏まえ、これらの阻害剤に対する抵抗性が生じる機序について、進行したCRC前臨床モデルで詳しく調べた。発がん性MAPKシグナル伝達は、in vivoで上皮の状態の変化を引き起こし、再生性/復活性の幹細胞様集団が選択を駆動する一方、MAPKシグナル伝達を阻害するとKras変異腫瘍とBraf変異腫瘍の両方で転写の迅速なリモデリングが引き起こされ、WNTが関連するカノニカルな幹細胞表現型が優先されることが分かった。これによって、Krasをドライバーとするモデルでは急性の治療抵抗性がもたらされ、Brafをドライバーとするモデルでは遅発性の治療抵抗性がもたらされる。初期の転移がんの場合やリガンドに依存したWNT経路のRnf43変異を標的にした場合のように可塑性が制限されている状況では、明確な治療応答が観察された。これによって、BRAF–RNF43同時変異のある患者集団で以前に観察されたBRAF + EGFRを標的とする治療に対する強力な応答が説明され、細胞の可塑性が治療応答に極めて重要なことが明らかになった。これらのデータを総合することにより、CRCでのMAPKを標的とする治療法に対する抵抗性の原因となる機構について、明確な考察が得られた。さらに、幹細胞の運命の囲い込みや上皮の可塑性の制限を狙う戦略、あるいは腫瘍に不均一性がない場合の介入といったような治療戦略は、これらの薬剤の治療効果を改善できる可能性がある。

