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コロナウイルス:SARS-CoV-2によって増強された自然免疫回避の進化

Nature 602, 7897 doi: 10.1038/s41586-021-04352-y

重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の懸念される変異株(VOC)の出現は、ヒトからヒトへの伝播を増強させるウイルスの適応を示唆している。多くの取り組みが、VOCのスパイクタンパク質の変化を特徴付けることに注力してきたが、スパイクタンパク質以外の変異も適応に寄与している可能性が高い。今回我々は、偏りのない量的プロテオミクスやホスホプロテオミクス、RNA塩基配列解読、ウイルス複製アッセイを用いて、アルファ変異株(B.1.1.7)の分離株は、第1波の分離株よりも、気道上皮細胞での自然免疫応答を効果的に抑制することを示す。我々は、アルファ株が、ヌクレオキャプシドタンパク質(N)、Orf9b、Orf6(いずれも既知の自然免疫アンタゴニスト)のサブゲノムRNAやタンパク質のレベルを顕著に増加させることを見いだした。Orf9bの単独発現は、RNA感知に関わるアダプター分子MAVSの活性化に必要なミトコンドリアタンパク質であるTOM70との相互作用を介して、自然免疫応答を抑制した。また、Orf9bの活性とそのTOM70との結合は、リン酸化によって調節されていた。ウイルスの特異的なアンタゴニストタンパク質の発現増強により、自然免疫をより効果的に抑制することが、アルファ株の伝播を成功させる可能性を高め、またin vivoでの複製や感染の持続性を高めていると考えられる。SARS-CoV-2のヒトへの適応における、スパイクをコードする領域外の変異の重要性は、デルタ変異株やオミクロン変異株のNおよびOrf9b調節領域に同様の変異が存在するという観察結果からも明らかである。

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