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コロナウイルス:肺および大腸のオルガノイドを用いたSARS-CoV-2阻害剤の特定

Nature 589, 7841 doi: 10.1038/s41586-020-2901-9

重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の生物学的性質を調べて、薬剤スクリーニングを促進するために、ヒト疾患に関連する細胞を用いて新しいモデルを作り出すことが緊急に必要とされている。SARS-CoV-2は主に気道に感染するため、今回我々は、ヒト多能性幹細胞を用いて肺オルガノイド(hPSC-LO)モデルを開発した。このhPSC-LO(具体的にはII型肺胞様細胞)はSARS-CoV-2感染を許容し、SARS-CoV-2感染に続いてケモカインのロバストな誘導が見られた。こうしたケモカインの誘導事象は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の患者でも見られる。ケモカインの誘導が見られる患者の約25%は消化器症状も示し、これはCOVID-19の転帰の悪化に関連している。そこで我々は、SARS-CoV-2感染に対する大腸細胞の応答を調べるために、補完的なhPSC由来の大腸オルガノイド(hPSC-CO)も作製した。その結果、複数のタイプの大腸細胞、特に腸細胞がACE2を発現していて、SARS-CoV-2感染を許容することが分かった。hPSC-LOを用いて、FDA(米国食品医薬品局)が承認した薬剤に対するハイスループットスクリーニングを行ったところ、イマチニブ、ミコフェノール酸、キナクリン二塩酸塩などの、SARS-CoV-2の侵入阻害剤が特定された。これらの薬剤を生理学的に適切な濃度で投与すると、hPSC-LOとhPSC-COの両方でSARS-CoV-2感染が有意に阻害された。まとめるとこれらのデータは、SARS-CoV-2を感染させたhPSC-LOとhPSC-COは、SARS-CoV-2感染を研究するための疾患モデルになり得ることを実証しており、COVID-19の治療薬候補を特定する薬剤スクリーニングのための貴重な情報資源を提供する。

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