細胞生物学:張力の不均一性が形態と運命を誘導して心筋壁パターンを形成する
Nature 588, 7836 doi: 10.1038/s41586-020-2946-9
多様な細胞運命と複雑な形態がどのように出現し、互いにフィードバックし合って機能的な器官を作り出すのかはよく分かっていない。発生中の心臓では、心筋は単純な上皮から、異なる層(外側の緻密層と内側の肉柱層)からなる複雑な組織へと移行する。心臓肉柱形成と呼ばれるこの過程に異常があると心筋症や胚性致死が起こるが、組織の対称性が破れて肉柱心筋細胞が指定される仕組みについては不明である。今回我々は、ゼブラフィッシュにおいて、局所的な張力の不均一性が心臓肉柱形成の際に器官スケールでのパターン形成と細胞運命決定を駆動することを示す。増殖誘発性の組織スケールでの細胞の密集は、緻密層の心筋で張力の不均一性を引き起こし、収縮性のより高い心筋の剥離を促して、これが肉柱層形成のきっかけとなる。実験では、緻密層心筋細胞において密集度を高めると剥離が増えるが、逆に密集度を低下させると剥離が起こらなくなった。また、Nrg–Erbb2などの重要な上流シグナルや血流を欠く肉柱形成異常のゼブラフィッシュモデルにおいて遺伝的モザイクを用いたところ、アクトミオシン収縮性の誘導は心筋細胞の剥離を救済し、この誘導が心筋細胞運命指定を誘導するのに十分であることが、緻密層心筋細胞でのNotchレポーターの発現による評価によって明らかになった。さらに、Notchシグナル伝達は、心筋細胞のアクトミオシン装置を撹乱して過剰な剥離を制限することで、心筋壁の構造を維持していることが分かった。従って、組織スケールの力が局所的な細胞構造に集まることで複雑な形態が作り出され、細胞運命選択が調節されており、これらのマルチスケールの調節性相互作用によって、ロバストな自己組織化による器官形態形成が確実に行われるようになっている。

