神経科学:視床下部における持続的防御状態の刺激特異的な符号化
Nature 586, 7831 doi: 10.1038/s41586-020-2728-4
皮質・海馬・運動系のネットワークの持続的な神経活動は、一時的に遭遇した刺激の作業記憶を仲介すると報告されてきた。恐怖などの内的情動状態もまた、誘発刺激への曝露後同様に持続するが、こうした過程にゆっくりと変化する神経動態が関係するかどうかについては、よく分かっていない。マウスでは、視床下部腹内側核の背内側と中央の亜領域(VMHdm/c)において核受容体タンパク質であるNR5A1(別名SF1)を発現するニューロンが、捕食者に対する防御反応に必要である。これらのニューロン(以後VMHdmSF1ニューロンとする)を光遺伝学的に活動させると、防御行動が刺激終了後も持続するようになり、これは恐怖や不安の持続的な内的状態が誘導されることを示唆している。今回我々は、マウスのVMHdmSF1ニューロンが、自然な脅威刺激に応答して、数十秒にわたって持続する活動を示すことを明らかにする。この持続的活動は、オープンフィールド試験で観測される持続的防御行動と相関していて、この行動に必要であり、さらにVMHdmSF1ニューロンからの神経伝達物質の放出に依存していた。急性切片での刺激実験とカルシウム画像化から、VMHdmSF1ニューロン間には局所的な興奮性接続があることが分かった。マイクロ内視鏡を用いてVMHdmSF1ニューロンのカルシウム画像化を行ったところ、集団レベルでの持続的活動が、個々の細胞間での不均一な動態を反映していることが示された。意外にも、VMHdmSF1ニューロンの別個だが部分的に重複する複数の亜集団の持続的活動はそれぞれ、脅威刺激の異なるモダリティーに起因していた。計算機モデルからは、反回性興奮や緩徐に作用する神経調節物質だけでは、刺激のアイデンティティーを保持する持続的活動を説明できないことが示唆された。今回の結果は、視床下部での刺激特異的でゆっくりと変化する(皮質での作業記憶を維持する活動より桁違いに長い時間スケールの)神経動態が、持続的な情動状態に関与することを示している。

