発生生物学:有袋類の胚形成とX染色体不活性化の単一細胞トランスクリプトーム・アトラス
Nature 586, 7830 doi: 10.1038/s41586-020-2629-6
胚の単一細胞RNA塩基配列解読を行えば、発生中の転写の状況を、これまでにない高い分解能で解明できる。現在まで、哺乳類胚の単一細胞RNA塩基配列解読研究は、真獣類だけに集中して行われてきた。哺乳類の外群の解析は、系統の特異化や多能性に関わる古くから保存されている因子を特定したり、X染色体の遺伝子量補償についての理解を深めたりできる可能性がある。後獣類(有袋類)の哺乳類は、およそ1億6000万年前に真獣類から分岐した。有袋類には、着床が遅い、インプリント型のX染色体不活性化といった発生上の独特な特徴があり、このインプリント型X不活性化はXISTに類似したノンコーディングRNAであるRSXの発現と関連している。今回我々は、単一細胞RNA塩基配列解読を行って、有袋類の一種ハイイロジネズミオポッサム(Monodelphis domestica)の胚発生とX染色体不活性化について調べた。その結果、胚盤葉上層、原始内胚葉、栄養外胚葉の発達曲線と転写シグネチャーが明らかになり、真獣類と有袋類の分岐に先立って出現し、ずっと保存されてきた系統特異的マーカーが突き止められた。X染色体のRSXによる被覆と不活性化は、早い時期に迅速に起こることが分かった。この観察結果は、初期にX染色体不活性化が起こる生物では、インプリント型のX染色体不活性化によって両方のアレルのサイレンシングを防いでいるとする仮説を裏付けている。我々は、インプリント型X染色体不活性化の調節因子の候補として、活性なX染色体から発現されるRSXのアンチセンス転写産物XSRを明らかにした。これらの知見からは、哺乳類の胚発生とX染色体の遺伝子量補償の進化についての手掛かりが得られる。

