生態学:気候変動と乱獲が海洋捕食者の体内の神経毒物濃度を増大させる
Nature 572, 7771 doi: 10.1038/s41586-019-1468-9
30億人を超す人々が栄養を魚介類に依存している。しかし魚類は、強力な神経毒物質であるメチル水銀(MeHg)のヒトにおける主要な曝露源となっている。米国では、MeHgへの人口全体の曝露量の82%が海産魚介類の消費によるもので、マグロ(生および缶詰)だけで40%近くを占める。無機水銀(Hg)は、自然発生源および人為的排出源から大気中へ放出される量の約80%が海洋に沈着し、そこで一部が微生物によってMeHgに変換される。捕食性魚類の体内では、環境中のMeHg濃度が100万倍またはそれ以上に濃縮されている。ヒトのMeHgへの曝露は、小児での長期的な神経認知障害(成人期まで持続する)と関連付けられており、その社会的コストは世界で200億米ドルを上回る。2017年には、人為起源のHg排出の削減に関する最初の国際条約「水銀に関する水俣条約」が発効した。しかし、海洋生態系において現在進行中の変化が、ヒトによって頻繁に消費される海洋捕食者(マグロ、タラ、メカジキなど)の体内でのMeHgの生物濃縮に及ぼす影響については、国際的な政策目標の設定の際には考慮されていなかった。今回我々は、30年以上のデータと生態系モデリングを用いて、タイセイヨウダラ(Gadus morhua)では、乱獲に端を発する食餌の変化の結果としてその体内MeHg濃度が、1970年代から2000年代の間に最大23%増大したことを示す。我々のモデルからはまた、海水温の1969年における最低値から最近の最高値レベルへの上昇によって、タイセイヨウクロマグロ(Thunnus thynnus)の組織中MeHg濃度の増大は56%に達すると推定された。この予測値は、2017年の観測結果と一致する。組織中のMeHg濃度に推定されるこうした増大は、海水中MeHg濃度の減少の結果として1990年代後半および2000年代に達成された22%というモデル化削減値を上回っている。人為起源の世界的なHg排出量は横ばい状態であることが最近報告されており、これは海洋温暖化と漁業管理計画が、海洋捕食者の体内の将来的なMeHg濃度を決める大きな駆動要因となることを示唆している。

