生態学:クロロフィル生合成遺伝子を持ち、広範に存在するサンゴ感染性アピコンプレクサ
Nature 568, 7750 doi: 10.1038/s41586-019-1072-z
アピコンプレクサ門は細胞内絶対寄生生物で、その中にはマラリアやトキソプラズマ症などのヒト疾患の病原体が含まれる。アピコンプレクサ類は、自由生活する光栄養生物である祖先から進化してきたが、寄生生活への移行がどのように起こったかは知られていない。これを知る手掛かりの1つはサンゴ礁にあり、サンゴ礁の環境DNAの調査からは、これまで詳しく調べられていなかった、基部で分岐した複数系統のアピコンプレクサ類の存在が明らかになっている。造礁サンゴは、光合成を行うSymbiodiniaceae科の渦鞭毛藻類(Symbiodinium属など)と共生関係にあり、この関係は詳しく調べられているが、サンゴと共生するそれ以外の重要な微生物の同定は難しいことが知られている。今回我々は、地域群集調査、ゲノミクス、顕微鏡解析を用いて、サンゴの主要なクレード全体にわたって非常に高い確率で存在する(調べた試料の80%以上、サンゴの属の70%以上)アピコンプレクサ系統の1つを見つけ出し、これを非公式に「corallicolid」と命名した。corallicolid類は、サンゴに関連する真核微生物ではSymbiodiniaceae類に次いで2番目に多く、従ってサンゴマイクロバイオームの中核構成員である。in situ蛍光顕微鏡観察と電子顕微鏡観察によって、corallicolid類がサンゴの胃腔組織中の細胞内に生息していること、またアピコンプレクサ類の持つ微細構造の特徴を有することが確認された。またcorallicolidの色素体ゲノムの塩基配列を解読したところ、光化学系のタンパク質の遺伝子が全て失われていることが分かった。これはcorallicolid類が非光合成型の色素体(アピコプラスト)を持つらしいことを示している。しかし、corallicoid類の持つ色素体は、クロロフィル生合成に関与する4種類の祖先遺伝子を保持している点が、他の既知のあらゆるアピコプラストと異なっている。つまりcorallicolid類は、寄生性の類縁生物と自由生活性の類縁生物の両方と特性を共有している。これは、corallicolid類が進化の中間体であることを示唆しており、光栄養生活から寄生生活への移行の間に見られる独特な生化学的性質の存在が考えられる。

