微生物学:海洋の炭化水素湧出域に由来するアーキアによるエタンの嫌気的酸化
Nature 568, 7750 doi: 10.1038/s41586-019-1063-0
エタンは天然ガス中にメタンに次いで多く含まれる成分で、メタンと同じく化学的に不活性である。無酸素条件下におけるエタンの生物的な消費は、海洋の炭化水素湧出域の複数の地球化学的プロファイルから、また、スラリー中でのエタン依存的な硫酸還元を通して示唆されていた。しかし、この過程を触媒する微生物および反応はまだ明らかにされていない。今回我々は、10年間にわたる特異的な集積培養によって得られたエタン酸化アーキアを記載するとともに、これらのアーキアについて、系統発生学に基づく蛍光解析、プロテオゲノミクス、代謝物解析を用いて行った分析の結果を報告する。この共存培養物は硫酸塩を硫化物に還元しながらエタンの完全な酸化を行い、そのほとんどは我々が「Candidatus Argoarchaeum ethanivorans」と命名したアーキア種で、他にはデルタプロテオバクテリア綱の硫酸塩還元菌が含まれていた。Ca. Argoarchaeumのゲノムには機能性のメチル補酵素M還元酵素に必要な遺伝子の全てが含まれており、タンパク質抽出物からは全てのサブユニットが検出された。これと一致して、液体クロマトグラフィー・タンデム質量分析法によって、代謝中間体としてエチル補酵素M(エチルCoM)が特定された。これは、Ca. ArgoarchaeumがエチルCoMの形成によってエタン酸化を開始することを示しており、この過程は最近報告された「Candidatus Syntrophoarchaeum」によるブタン活性化と類似している。さらに、プロテオゲノミクスからは、代謝中間体であるアセチルCoAのCO2への酸化が、酸化的ウッド・ユングダール経路を介して起こることが示唆された。エタン(C2H6)を用いるアーキア種の存在が明らかになったことで、アルカンの同族体(CnH2n+2)を無酸素条件で特異的に酸化する微生物についての我々の知識の空白が埋められた。Ca. Argoarchaeumの系統発生学的遺伝子マーカーや機能的遺伝子マーカーに近いものが深海の湧出域で検出されていることから、エチルCoMを介したエタン酸化を行う能力を持つアーキアが、こうした湧出域周辺で放出される気体アルカンによって育まれる局地的な群集に広く存在することを示唆している。

