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神経科学:ナトリウム欲求を化学感覚で調節する神経回路

Nature 568, 7750 doi: 10.1038/s41586-019-1053-2

ナトリウムは細胞外液中に最も多く含まれる陽イオンであり、さまざまな生理機能を調節している。体のナトリウムが不足すると、塩味の快の感情価が高まり、動物をナトリウム摂取に向かわせる。一方、口腔でナトリウムが感知されると、塩欲求がすぐに低下することから、味覚信号がナトリウム欲求とその充足に中心的役割を果たしていると考えられる。しかし、化学感覚に基づく欲求調節の神経機構は、ほとんど解明されていない。今回我々はマウスで、化学感覚信号と体内の欠乏信号を統合してナトリウム摂取を制御する神経回路を、遺伝的に識別される形で同定した。前青斑核中の興奮性ニューロンの一部がプロダイノルフィンを発現し、これらのニューロンはナトリウム摂取行動に重要な神経基盤をなすことが分かった。このニューロン群を急性刺激すると、強い塩摂取行動が始まり、通常なら忌避信号を発する岩塩に対しても摂取行動が見られた。同じニューロン群を抑制すると、ナトリウム摂取が選択的に低下した。また、口腔でナトリウムを感知すると、これらのナトリウム欲求ニューロンの活動は直ちに低下した。in vivoで光学的活動記録を行いながら胃への直接的なナトリウム還流を行った結果、プロダイノルフィンを発現する前青斑核ニューロンの即時的な調節やナトリウム欲求の充足に必要なのは、塩味の知覚であってナトリウムの摂取自体ではないことが明らかになった。また、逆行性ウイルス追跡によって、知覚調節の一部は分界条床核のGABA(γ-アミノ酪酸)産生ニューロンによって媒介されていることが分かった。この抑制性ニューロン群は、ナトリウム摂取によって活性化し、ナトリウム欲求ニューロンに即時的な抑制信号を送っていた。これらの知見から、化学感覚信号と内的要求を統合して、体のナトリウム平衡を維持するための神経構造が明らかになった。

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