分子生物学:TRAIPはDNAの鎖間架橋修復に関わるマスター調節因子である
Nature 567, 7747 doi: 10.1038/s41586-019-1002-0
細胞は同じDNA損傷を修復するのに複数の経路を使うことがしばしばで、経路選択はゲノム維持の忠実度に大きく関わってくる。DNAの鎖間架橋はDNAの2本の鎖を共有結合で連結してしまうので、複製や転写が妨害される。そのため、このような架橋の細胞毒性は化学療法に活用されている。アフリカツメガエル(Xenopus)の卵抽出物では、複製フォークが鎖間架橋にぶつかると、2つの異なる修復経路が動き始める。NEIL3グリコシラーゼは架橋を切断できるが、もしこれが失敗すると、ファンコニ貧血タンパク質が鎖間架橋周辺のリン酸ジエステル骨格に切り込みを入れて二本鎖切断中間体を生じさせ、これが相同組み換えによって修復される。より簡単なNEIL3経路が、ゲノム再編成を引き起こしかねないファンコニ貧血タンパク質経路より優先される仕組みについては、まだ解明されていない。今回我々は、E3ユビキチンリガーゼTRAIPが、これら2つの経路の両方に必要なことを明らかにする。2つのレプリソームが1つの鎖間架橋の所に集まると、TRAIPが複製DNAヘリカーゼCMG(CDC45、MCM2–7、GINSの複合体)をユビキチン化する。短いユビキチン鎖は、NEIL3に直接結合してこれを引き寄せる。一方、より長い鎖は、p97 ATPアーゼによるCMGのDNAからの取り外しに必要で、CMGが外れるとファンコニ貧血タンパク質経路が働けるようになる。従って、TRAIPは複製に共役して鎖間架橋を修復する既知の2つの経路の選択を制御している。これらの結果と最近の我々の知見とを総合することにより、TRAIPがCMGの取り外しやレプリソームの障害物に対する応答のマスター調節因子であることが明確になった。

