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プロテオミクス:プロテオミクスによって明らかになった早期肝細胞がんの新たな治療標的

Nature 567, 7747 doi: 10.1038/s41586-019-0987-8

肝細胞がんは、世界のがんによる死亡原因の第3位となっている。肝細胞がん発症の主要なリスク因子の1つはB型肝炎ウイルスの感染で、東アジアでは特に多い。早い段階では外科的治療が有効な場合もあるが、このがんを発症した後の5年全生存率は50~70%にすぎない。今回我々は、B型肝炎感染と関連のある早期臨床段階の肝細胞がんで、腫瘍組織と非腫瘍組織からなる110対の試料についてプロテオームプロファイリングとリン酸化プロテオームプロファイリングの手法を用い、特徴を調べた。この定量的プロテオームデータから、早期段階の肝細胞がんに見られる不均一性が明確になり、この結果を用いて、我々はコホートをS-I、S-II、S-IIIのサブタイプに階層化した。これらのサブタイプは、それぞれ異なる臨床転帰を示すことが分かった。S-IIIはコレステロール恒常性の破綻を特徴とし、全生存率は最低で、一次治療である外科手術後の予後不良のリスクは最も大きい。ステロールO-アシルトランスフェラーゼ1(SOAT1)の高発現はS-IIIサブタイプに特異的なシグネチャーであり、SOAT1をノックダウンすると、細胞のコレステロール分布が変化して、肝細胞がんの増殖と転移が効果的に抑制された。我々はさらに、肝細胞がん患者由来腫瘍の異種移植マウスモデルを用いて、SOAT1阻害剤のアバシミブによる治療が、SOAT1を高発現する腫瘍のサイズを顕著に縮小させることを明らかにした。今回の研究で示された早期段階の肝細胞がんのプロテオミクスに基づく階層化は、このがんの腫瘍生物学的性質についての知見をもたらし、それを標的とする個別化治療開発の機会があることを示唆している。

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