微生物学:ハマダラカ類の抗マラリア薬への曝露はマラリア原虫の伝播を阻止する
Nature 567, 7747 doi: 10.1038/s41586-019-0973-1
ハマダラカ属(Anopheles)の蚊による刺咬は、寄生虫である熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)を伝播してマラリアを引き起こし、これによって毎年数十万人が死亡している。今世紀に入り、マラリア原虫の伝播を防ぐ取り組みは、殺虫剤で処理した蚊帳の大量配布により大きな成功を収めており、マラリアによる死亡者数のこれまでにない減少につながっている。しかし、ハマダラカ類の個体群では殺虫剤への抵抗性が広がっており、マラリアの世界的な再流行への脅威になるとともに、この疾患を管理するための有効な手法の開発が公衆衛生における喫緊の優先事項となっている。今回我々は、ガンビエハマダラカ(Anopheles gambiae)の雌が特定の抗マラリア薬で処理した表面からこの薬剤を低濃度摂取すると(蚊帳との接触を模倣する条件)、熱帯熱マラリア原虫の発生が迅速かつ完全に阻止できることを示す。熱帯熱マラリア原虫に感染する前、あるいは感染直後の蚊をアトバコンにさらすと、中腸においてマラリア原虫が完全に休止状態となり、感染の伝播が防止された。同様の伝播阻止効果は他のシトクロムb阻害剤でも達成され、これは、マラリア原虫のミトコンドリアの機能がこれらの寄生虫を死滅させるのに適した標的であることを実証している。こうした効果をマラリア伝播動態のモデルに組み込んだところ、蚊帳のマラリア原虫阻害剤による含浸によって、殺虫剤抵抗性という世界的な健康問題を著しく軽減させられることが予測された。この研究は、ハマダラカ類の雌によるマラリア原虫の伝播を阻止するための強力な戦略の存在を明らかにしており、マラリアの根絶に向けた取り組みに有望な展望をもたらす。

