物性物理学:ネマチック量子臨界点の近傍での電気抵抗
Nature 567, 7747 doi: 10.1038/s41586-019-0923-y
相関電子系はさまざまな形の電子秩序の影響を強く受ける。その秩序の転移温度を絶対零度にもっていくと、従来型の金属(フェルミ液体)の振る舞いからの著しい逸脱が生じ得る。このいわゆる量子臨界的挙動を示す金属系の多くの物質で、電子ネマチック性、すなわち回転対称性が破れた相関電子状態を示す証拠が報告されてきた。しかし、それら全ての場合において、こうしたネマチック性は、反強磁性や電荷密度波秩序などの他の形の秩序と絡み合っていることが分かっており、観測された挙動は、こうした他の秩序自体に起因している可能性がある。鉄カルコゲニドFeSe1−xSxは、この点において特異な系である。なぜなら、そのネマチック秩序は、他の秩序と絡み合うことなく単独で起こると考えられるからである。ただし、これまでのところ、その電子基底状態へのネマチック性の影響は、低温で超伝導状態になるため覆い隠されてきた。今回我々は、高磁場を使ってFeSe1−xSxの超伝導状態を破壊して、ネマチック量子臨界点近傍で電気抵抗がどのように変化するかを追跡した。その結果、量子臨界の典型的な特徴、すなわち、この臨界点に近づくとT2抵抗の係数(電子–電子散乱に起因する)が大きくなり、量子臨界点では温度Tに厳密に比例する抵抗が1桁の温度範囲にわたって広がっていることが明らかになった。ネマチック量子臨界の現象が明らかになったことに加えて、ネマチック臨界点でTに比例する抵抗が観測されたことから、Tに比例する抵抗がそれぞれの相図の幅広い領域にわたって観測されている他の「奇妙な金属」の輸送特性においても、強いネマチックゆらぎが関与するのかどうかという問題も提起された。

