遺伝学:哺乳類の発生ではエンハンサーの冗長性が表現型のロバスト性をもたらす
Nature 554, 7691 doi: 10.1038/nature25461
哺乳類のゲノムでは、遠くから作用して遺伝子発現を調節する組織特異的なエンハンサーの数は、タンパク質をコードする遺伝子の数をはるかに上回っているが、このような調節系の複雑性が持つ機能的重要性については、まだ分かっていない。今回我々は、同一遺伝子の周辺に似たような活性を持つ複数のエンハンサーが幅広く存在することが、個々のエンハンサーの機能喪失変異に対して表現型のロバスト性をもたらすことを明らかにする。まず、ゲノム編集によって、マウスの欠失系統とその相互交配による系統を23種類作製した。これらは肢の発生に必要な7つの異なる座位について、エンハンサーを1個あるいは組み合わせて欠失させたものを含んでいる。意外にも、10種類のエンハンサーについては個々にどれを欠失させても、肢の形態に明確な変化は引き起こさなかった。これに対して、同一遺伝子の近傍にある肢エンハンサーを2つ除去すると顕著な表現型が生じたことから、正常な形態の確立ではエンハンサーが冗長的に機能することが示された。標的遺伝子の発現のベースラインを下げて感受性を高めた遺伝的背景では、1つのエンハンサーの欠失でも肢の形態異常が生じたことから、機能の冗長性は、遺伝子発現レベルに対するエンハンサーの相加的効果によって生じると考えられる。マウスの29種類の発生中の組織から得たエピゲノムとトランスクリプトームのデータを統合してゲノム規模で解析したところ、哺乳類の遺伝子は、時空間的によく似た活性を持つ複数のエンハンサーを伴うのが一般的であることが分かった。3つの代表的な発生構造(肢、脳、心臓)を系統的に調べると、同一遺伝子の近くに冗長的な作用パターンを示すエンハンサーが5個以上存在する例が1000以上も見つかった。これらのデータを総合すると、エンハンサーの冗長性は哺乳類ゲノムに際立って広く存在する特性であり、これが調節において効果的な緩衝となり、個々のエンハンサーが失われた場合に有害な表現型が生じないようにしていることが明らかになった。

