Letter

原子物理学:超高強度硬X線に対する多原子分子のフェムト秒応答

Nature 546, 7656 doi: 10.1038/nature22373

X線自由電子レーザーによって、原子、分子、ナノ結晶、単一生体粒子などの多様な系の構造やダイナミクスを、極端な条件下で研究できる。生物学的な系や複雑な材料を対象とする多くの撮像応用には、ピーク強度が極めて高い(1020 W cm−2を超える)硬X線パルスが用いられる。しかし、基礎研究では、はるかに低い強度の軟X線を用いて原子や小さな分子の個々の応答を調べることに主に重点が置かれてきた。高強度X線パルスを用いる研究においては、X線を照射された原子は、多光子吸収が起こるために非常に高いイオン化(電離)度に達することが示されている。異核分子系では、多光子吸収は主として重原子で局所的に起こり(重原子の吸収断面積が隣接原子よりもかなり大きい場合)、これに続いて、誘起された電荷の効率的な再配分が起こる。生体物質のシリアルフェムト秒結晶構造解析(X線自由電子レーザーの応用の1つで、非常に強力なタンパク質構造決定法)において、重原子のイオン化は、生体物質の回折パターンによく見られるように局所的な放射線損傷を引き起こす一方で、回折データの位相を決定する方法として提案されてきた。軟X線やそれほど強くない硬X線を用いた実験に基づき、多原子分子中の原子の誘起電荷とそれに伴う放射線損傷は、同等の照射条件下で孤立原子に誘起される電荷から推測できると考えられている。今回我々は、重原子を1個持つ小さな多原子分子の、超高強度(1020 W cm−2に達する強度)硬(8.3 keVの光子エネルギー)X線パルスに対するフェムト秒応答が、質的に異なることを示す。すなわち、今回の実験とモデル計算の結果から、こうした条件下では、分子1個のイオン化は、吸収断面積が同じ重原子1個のイオン化と比較してかなり増強されていることが確認された。このイオン化の増強は、分子内の超高速電荷移動によって駆動される。こうした分子内電荷移動によって、重原子内に生成された内殻正孔に電子が補充されるため、この原子がさらなる内殻イオン化の対象となり、結果としてこのX線パルス照射中に50個以上の電子が放出される。今回の研究結果は、複雑な系の超高強度X線誘起過程に有効なモデル計算が可能であることを実証している。

目次へ戻る

プライバシーマーク制度