がんゲノミクス:ゲノム再編成パターンに基づいた、膵臓がんの新たな進化モデル
Nature 538, 7625 doi: 10.1038/nature19823
膵臓がんは、非常に悪性度の高い腫瘍で予後は一様に悪く、がんの多段階発生という古典的な説の良い例である。現在の腫瘍発生モデルは、膵上皮内腫新生物(PanIN)と呼ばれる前駆病変の解析に基づいたもので、2つのことを予測している。1つは、膵臓がんは特定の連続的な遺伝子変異(KRAS、CDKN2A、TP53、SMAD4の順)を経て発生するというもので、もう1つは、これらの変異がそれぞれ独立に獲得されるため、膵臓がんのプログレッションの進化は緩やかであるというものだ。このモデルの欠点は、クローン増殖した前がん病変が必ずしも腫瘍細胞系譜に属すわけではないことで、腫瘍細胞系譜と前がん病変が異なった進化の道筋をたどる可能性を示している。この腫瘍発生モデルの広まりが、膵臓がんはゆっくりと進化し進行期になってから見つかる、という臨床的概念につながった。しかし、早期発見に向けた努力がなされているものの、膵臓がんが急速に転移し、患者の転帰も改善できないという傾向は、膵臓がんのプログレッションが緩やかではないことを示唆している。今回我々は、豊富な腫瘍細胞試料でゲノム塩基配列解読を行い、新たに開発したインフォマティクスのツールを用いて、DNAコピー数の変化と、それに関連するゲノム再編成を追跡した。その結果、膵臓がんの腫瘍発生が緩やかには進まず、これまで受け入れられてきた変異の順序にも従わないことが明らかになった。腫瘍の3分の2で、有糸分裂の失敗に関連する複雑な再編成パターンが見られ、これは主要な進化の道筋が断続的な平衡であることと符合する。一部の症例では、こうした有糸分裂の失敗の結果として、カノニカルな前新生物性のドライバー遺伝子が連続的ではなく同時にノックアウトされ、このことが浸潤性のがんの増殖を引き起こすと考えられる。今回の知見は、現在の膵臓がんのプログレッションモデルに異議を唱えるもので、こうした悪性度の高い腫瘍を生じる変異プロセスを解明するための手掛かりとなる。

