遺伝子工学:CRISPR/Cas9を用いた、特異的なホモ接合およびヘテロ接合変異の効率的な導入
Nature 533, 7601 doi: 10.1038/nature17664
細菌のCRISPR/Cas9系は、多くの生物で塩基配列特異的な遺伝子編集を可能にし、例えばヒト多能性幹細胞などでのヒト疾患モデル作製の手法としてその活用が期待されている。CRISPR/Cas9によって、狙った部位に高い効率で導入された二本鎖切断(DSB)は、通常、非相同末端結合修復(NHEJ)によって修復されるため、非特異的な挿入、欠失などの変異(インデル)が生じる。DSBは、導入された一本鎖オリゴDNAヌクレオチド(ssODN)などのDNA修復の鋳型を使って相同性に基づく組換え(HDR)によって修復することもできるため、特定の変異をノックインできる。CRISPR/Cas9は、NHEJを介した遺伝子ノックアウトを作るのには広く利用されているが、HDRを介した編集は効率が改善されず、余分なインデルが起こって誤って改変されてしまう可能性もあるために、疾患関連変異の導入による遺伝性疾患のモデル作製への幅広い利用が妨げられている。また、ヘテロ接合変異が原因で起こる疾患のモデルを作るための、単一の対立遺伝子を標的とした変異のノックインは、まだ報告がない。今回我々は、高効率・高精度で単一あるいは両対立遺伝子に塩基配列変化を選択的に導入できる、CRISPR/Cas9に基づくゲノム編集手法について説明する。病原性変異と共にCRISPR/Cas9を阻害するサイレント変異を組み込むことによって、HDRの精度が飛躍的に高まることが分かり、我々は傷跡を残さないゲノム編集方法を確立して、「CORRECT」と名付けた。変異の取り込み率とDSBからの距離との間に典型的な反比例関係があることを明らかにし、これを利用することによって、我々は接合性を予測どおりに制御できるようになった。ホモ接合変異の導入には、目的の変異に近い場所を標的とするガイドRNAが必要であるが、これに対してヘテロ接合変異の導入は、距離に依存した準最適変異の取り込みや、混合修復鋳型の使用によって実現できる。この手法を使って、アミロイド前駆体タンパク質(APPSwe)とプレセニリン1(PSEN1M146V)に早発性アルツハイマー病の原因となる優性変異をヘテロ接合あるいはホモ接合に持つヒト誘導多能性幹細胞を作製し、それから皮質ニューロンを誘導したところ、このニューロンは遺伝子型に依存した疾患関連表現型を示した。これらの結果から、CRISPR/Cas9を利用して特異的な塩基配列変化を効率よく導入でき、ヒトの疾患の研究が容易になることが分かった。

