惑星科学:月の極地水素から推測される真の極移動
Nature 531, 7595 doi: 10.1038/nature17166
月の誕生直後の力学的・熱的な歴史はよく分かっていない。月の両極付近には、おそらく水氷として存在する堆積物があり、こうした堆積物は永久影の中にずっとあり続けないかぎり残存しないため、そこに含まれる水素の量から、月のこうした歴史に対する知見が得られる可能性がある。月の向きが変化すれば、日陰の領域も変化する。軌道上を周回している中性子スペクトロメーターによって、極地の水素堆積物がマッピングされているが、観測された空間分布は現在の月の温度から推定される水氷の予想分布とは一致していない。この発見は、水星の極のよく似た熱的環境内で観測されている揮発性物質の分布とは異なっている。本論文では、極地の水素が月の自転軸の移動の証拠を保持していることを示す。つまり、水素堆積物は、各極からそれぞれ逆の経度方向に等しく移動した、対蹠的な2つの位置に存在する。推測される月の向きの変化の方向と大きさ、および慣性モーメントの分析から、我々は、真の極移動と呼ばれる自転軸のこの変化は、プロセラルム領域直下の低密度の熱異常によって生じたという仮説を提唱する。この領域内の放射壊変熱は、月の海の火成活動の大半をもたらし、月の密度構造を変えて、慣性モーメントを変化させた。その結果、観測された残留極水素と矛盾しないような真の極移動が生じた。この熱異常はまだ存在しており、現在の月の向きをある程度制御している。プロセラルム領域は、月の歴史の初期において地質学的に最も活動的な場所であった。これは、極移動が数十億年前に始まり、測定された極地の水素の大半は古く、水は早い段階で内部太陽系に運ばれてきた記録であることを示唆する。我々の仮説は、月の極地の水素の対蹠的な分布に対して説明を与え、極の揮発性物質と、月の地質学的・地球物理学的進化や太陽系初期の重爆撃の歴史を結び付ける。

