Letter
人類学:肉食と前期旧石器時代の食物加工技術がヒトの咀嚼能力に与えた影響
Nature 531, 7595 doi: 10.1038/nature16990
ヒト属(Homo)の起源は定かではないが、ホモ・エレクトス(H. erectus)の出現までには、ヒト族はより大きな脳と体を進化させており、採餌域の拡大と相まって、1日に必要なエネルギーも増加していたと考えられる。だがホモ・エレクトスは、それ以前のヒト族と異なり、歯が比較的小さく、咀嚼筋が少なくて、最大咬合力が弱く、消化管も比較的短かった。エネルギー必要量の増加と咀嚼能力および消化能力の低下という、この矛盾した組み合わせが可能になったのは、食餌に肉が加わったためとする仮説もあれば、石器を使用した食物の機械的加工によるとする仮説や、加熱調理によるとする仮説もある。しかし、加熱調理は50万年前までほとんど行われなかったと見られており、また、肉食や旧石器時代の食物加工技術が咀嚼に与えた影響もよく分かっていない。今回我々は、ヒトで肉や植物の地下貯蔵器官(USO)の摂食実験を行い、前期旧石器時代の食物加工技術が咀嚼力の発生や効率にどのように影響するかを調べた。その結果、肉が食餌の3分の1を占める場合、1年間の咀嚼回数は200万回近く減少し(13%の減少)、必要な全咀嚼力は15%減少することになると分かった。それに加え、肉を単に薄く切ったりUSOをたたいてつぶすだけで、肉を細かくかみ砕くヒト族の能力は41%も向上し、年間の咀嚼回数はさらに5%減少、必要な咀嚼力もさらに12%減少したと考えられる。加熱調理には大きな利点があるが、ヒト属において、より低い咀嚼能力の選択を最初に可能にしたのは、石器の使用と肉食の組み合わせだったと思われる。

