神経科学:MeCP2を過剰発現するトランスジェニックサルでの自閉症様行動および生殖細胞系列伝達
Nature 530, 7588 doi: 10.1038/nature16533
MeCP2(methyl-CpG binding protein 2)は、転写調節およびマイクロRNAプロセシングに非常に重要な役割を担っている。MECP2遺伝子の変異は、自閉症表現型を伴う重度発達障害であるレット症候群の90%の患者に見られる。MECP2を含むゲノム断片の重複はMECP2重複症候群を引き起こし、この症候群は自閉症スペクトラム障害と中心となる症状が共通している。Mecp2ヌルマウスはレット症候群の患者に見られるほとんどの発達異常や行動異常を再現するが、MeCP2を過剰発現するマウスモデルでは自閉症様行動を明らかにすることは難しい。今回我々は、脳にヒトMeCP2を発現する、レンチウイルスを用いたトランスジェニックカニクイザル(Macaca fascicularis)では自閉症様行動が見られ、この導入遺伝子が生殖細胞系列伝達することを報告する。MECP2導入遺伝子の発現は、トランスジェニックサルの脳組織をウェスタンブロット法および免疫染色法で調べることにより確認した。この導入遺伝子がゲノムに挿入された部位の特徴付けは詳細な塩基配列解読を基盤とする方法で行った。脅威に関連した不安および防御的行動(TAD;threat-related anxiety and defensive)についての試験で測定されたように、MECP2トランスジェニックサルは、野生型サルよりも反復的にケージ内をぐるぐる歩き回る頻度が高く、ストレス応答が増加していた。社会的相互作用試験では、トランスジェニックサルは、同じグループ内の野生型サルとの相互作用が少なく、他のトランスジェニックサルと対にされた場合の相互作用時間も減少していた。WGTA(Wisconsin general test apparatus)を用いた場合、トランスジェニックサルの認知機能はおおむね正常であったが、定型的な認知行動の徴候を示すサルもいた。特に、F0トランスジェニックサル1頭の精子を用いた卵細胞質内精子注入法により、MECP2トランスジェニックサルの5頭のF1仔の作製に成功し、F1仔でいくつかのMECP2導入遺伝子の生殖細胞系列伝達とメンデル型分離が示されたことは重要である。さらに、F1トランスジェニックサルも、対にした試験では、同様の月齢の野生型サルよりも社会的相互作用が減少していた。これらの結果を合わせると、遺伝子改変非ヒト霊長類を脳障害の研究に使用することは実現可能であり、信頼性が高いことを示している。

