材料化学:酸化物において室温でスイッチング可能な分極と磁化を設計する
Nature 525, 7569 doi: 10.1038/nature14881
強誘電材料は原子スケールの電気双極子が、強磁性材料は原子スケールの磁気双極子が長距離秩序を示し、それぞれ適当な電場、磁場を印加することによってスイッチングできる。こうしたスイッチング現象はどちらも不揮発性ランダムアクセスメモリーの基礎となるが、強誘電体の場合は電気的な破壊読み出しが行われ、磁性体の場合は高い書き込みエネルギーが必要である。原理的には、磁気電気マルチフェロイック材料を用いれば、高速の電気的書き込みと磁気的読み出しを組み合わせた低電力高密度情報記憶を実現できる。磁気電気マルチフェロイック材料は、強誘電性と強磁性を同時に示すだけでなく、外部電場によって磁気モーメントを生じさせたり、磁場によって電気分極を生じさせたりすることができる。しかし、従来型の強誘電性は閉殻構造のd0カチオンかs2カチオンを必要とするのに、強磁性秩序は不対電子を有する開殻dn配置を必要とするため、室温で両方の長距離秩序を兼ね備える単結晶構造のバルク材料を合成することは困難である。こうした相反する必要条件が、強誘電体への磁性イオン置換といった原子スケールの設計戦略に大きな困難をもたらしている。強誘電秩序と磁気秩序の両方を示す材料の1つがBiFeO3であるが、BiFeO3はサイクロイド型磁気構造をとるため、バルク磁化や線形磁気電気結合が不可能となる。強誘電体とスピングラス・ペロブスカイトの固溶体は、長距離磁気秩序がないものの、スイッチング可能な分極とグラス磁化を兼ね備えている。最近、結晶工学的手法による層状ペロブスカイトの作製によって室温極性強磁性体が実現されたが、電気分極のスイッチングは不可能であった。今回我々は、バルク・ペロブスカイト酸化物において、モルフォトロピック相境界(PbZrO3–PbTiO3系に例示されるような、分極方向の異なる2つの極性相の組成境界)で極性格子対称性を示す構造骨格内で強い超交換相互作用を示す磁性イオンのパーコレーションネットワークを構築することによって、分極スイッチングを促進するとともに秩序磁気モーメントの反転を可能にし、室温で強誘電性と強磁性を両立させている。我々は、この設計戦略でさまざまなチューナブル・マルチフェロイック材料の創製が可能になると期待する。

