生化学:メタンからメタノールへの酵素的酸化で重要な化学種の構造
Nature 518, 7539 doi: 10.1038/nature14160
メタンモノオキシゲナーゼ(MMO)は、メタン酸化細菌でメタンからメタノールへのO2依存的な変換を触媒することで、この強力な温室効果ガスの年間約10億トンに上る大気中への放出を防止している。可溶性MMO(sMMO)の重要な反応サイクル中間体は、「化合物Q(Q)」と呼ばれている。Qは特有の二核FeIVクラスターを有し、これがメタンと反応して、105 kcal mol−1という極めて強力な結合エネルギーを持つC–H結合を開裂させ、酸素原子を1個挿入する。このような触媒能を持つ生物学的酸化剤は、微粒子状のMMOに見られる例を除いて他には存在しない。Qの構造については、分光学や計算論、合成のモデル研究が数多く行われているものの、いまだに議論が続いている。共鳴ラマン振動分光法を用いることで確実な構造決定が可能だが、過去20年にわたる研究にもかかわらず、Qの振動スペクトルはまだ得られていない。本論文では、時間分解共鳴ラマン分光法(TR3)を用いて、Qおよびその反応で生成する複合体「化合物T(T)」のコア構造を示す。TR3は、短寿命化学種に対して大規模な信号加算平均を行うことで、それぞれの中間体に固有な振動シグネチャーを同定して識別することができる。Qがビス-μ-オキソダイヤモンドコア構造を持つことを裏付ける明確な証拠が得られ、どちらの架橋酸素もO2起源であることが明らかになった。この観察結果は、O–O結合開裂のホモリシス機構を強く支持している。また、TはO2由来の酸素原子のうち1個のみを架橋配位子として保持し、もう一方の酸素原子は生成物に取り込まれることも分かった。Qの極めて強い酸化能の把握は、バイオレメディエーションや、メタン系代替燃料および化学工業原材料の合成法開発の点からも現在特に重要である。今回決定されたQの構造からは、その形成や反応性に関する手掛かりも得られ、これはこの酸化能の利用に向けた重要な一歩となる。

