構造生物学:Photorhabdus luminescens毒素の注射器様の注入機構
Nature 495, 7442 doi: 10.1038/nature11987
Photorhabdus luminescensは、昆虫病原性線虫と共生している昆虫病原性細菌である。昆虫の幼虫に侵入すると、P. luminescensは線虫から放出され、3つの成分からなる大きなABC型毒素複合体(Tc)などのさまざまな病原性因子が働いて昆虫を殺す。Tcは通常、TcA、TcB、TcCタンパク質で構成されていて、これらすべてがそろっているときにだけ生物活性を持つ。ADPリボシルトランスフェラーゼとして働くTcCタンパク質は、アクチンクラスター形成やファゴサイトーシス異常、細胞死を引き起こす実際の機能成分であることが突き止められている。しかし、TcA、TcB成分によってTcCが細胞内に送り込まれる仕組みについては、ほとんどわかっていない。本論文では、P. luminescensのTcA(TcdA1)が膜を貫通する小孔を形成することを明らかにし、低温電子顕微鏡により決定した小孔形成前と小孔形成後の構造を報告する。TcdA1は、小孔形成前に集合して五量体となり、αヘリックスでできた直径1.5 nm未満のブブゼラ形のチャネルを形成する。チャネル周囲は大型の外殻によって取り囲まれている。膜への挿入は、予想されていたような低pHの場合だけでなく、高pH状態でも誘発されることから、pHの高い昆虫の中腸で直接にTcが作用する理由が説明される。膜に挿入されたTcdA1孔の構造と、TcdB2、TccC3と複合体を形成した構造との比較により、膜への挿入に伴って大きなコンホメーション変化が起こることが明らかになり、このことからタンパク質の移行に関わる、注射器に似た新規な機構が考えられる。これらの結果によって、ABC型毒素複合体が膜を通過して宿主細胞の細胞質へ致死成分を送り込む機構が明らかになった。この機構は、ABC型毒素ファミリーすべてに共通する特徴だと考えられる。毒素移行に関するこの機構の解明により、P. luminescensやヒト病原菌などのさまざまな病原体の宿主–病原体相互作用や複雑な生活環の解明が一歩進み、バイオ農薬開発のための強力な基盤が得られた。

