医学:患者特異的なiPSCを用いた不整脈惹起性右室異形成の研究
Nature 494, 7435 doi: 10.1038/nature11799
体細胞を再プログラム化して患者特異的な誘導多能性幹細胞(iPSC)とすれば、病因の研究や治療法のスクリーニングに使える、ヒトの遺伝性疾患のin vitroモデルを作ることができる。しかし、iPSCから誘導した心筋細胞(iPSC-CM)は比較的未熟で、成人の病気の表現型を完全に再現できるかどうかは不確実なため、iPSC-CMを使って成人発症型心疾患のモデルを作製するのは相当に難しい。遺伝性心疾患である不整脈惹起性右室異形成/心筋症(ARVD/C)は、主に右室だけに起こる病的な脂肪浸潤、心筋細胞の喪失を特徴とし、これは致命的な心室性不整脈と関連している。患者の50%以上にデスモソーム遺伝子の変異が見られ、中でもplakophilin-2をコードするPKP2の変異が最も多い。ARVD/C発症年齢の中央値は26歳である。我々はすでに報告されている方法を使って、PKP2に変異を持つ2人のARVD/C患者の繊維芽細胞からiPSC株を作製した。変異PKP2 iPSC-CMでは、心臓発生条件下でプラコグロビンの核移行とβ-カテニンの活性低下が見られたが、この異常だけでは、標準的な心臓発生条件下で見られるARVD/Cの病的な表現型を再現するには不十分である。今回我々は、胎児性/解糖系の代謝のエネルギー特性から成人に似た代謝のエネルギー特性への誘導と、PPAR-γ(peroxisome proliferator-activated receptor gamma)の異常な活性化が、ARVD/Cの発症に関与することを明らかにした。合成培地中の拍動する胚様体で正常なPPAR-α依存性代謝と異常なPPAR-γ経路とを同時に活性化することにより、有効なARVD/C in vitroモデルを2か月以内に確立することができた。このモデルでは、変異PKP2 iPSC-CMに、過剰な脂質生成とアポトーシスが見られる。また、変異PKP2をホモ接合で持つiPSC-CMには、カルシウム処理の異常も見られた。この研究は、患者特異的なiPSCを用いた成人発症型疾患モデルの作製に、成人様代謝の誘導が重要な役割を果たすことを示した初めての例である。このモデルを利用することにより、成人様代謝環境における代謝障害がARVD/C発症の原因となるという重要な手がかりが得られ、新しい治療戦略の提案が可能になった。

