物性:半導体の40 Kのレーザー冷却
Nature 493, 7433 doi: 10.1038/nature11721
自然反ストークス放出を伴う光照射を行うと物質の冷却が起こり、これは、プリングスハイムが1929年に提案したレーザー冷却、つまり光学冷却として知られる現象で生じる。気体状の物質では、希薄原子気体においてドップラー冷却により極低温が得られ、また超高密度の気体のレーザー冷却が放射の衝突再分配により実証されている。固体物質では、レーザー冷却は、反ストークスルミネセンスの際に、格子振動の量子であるフォノンの消滅によって実現される。希土類金属をドープしたガラスで実験により最初に実証されてから、特にイッテルビウムをドープしたガラスや結晶でかなりの進展が見られた。最近、周囲の温度から約110 Kまで冷却した記録が得られ、これは熱電ペルチェクーラーを超えている。原子共鳴が支配的な希土類金属ドープ系ではなく、励起子共鳴が支配的になる半導体でレーザー冷却が実現されれば、関心を集めると考えられる。しかしこれまで、主にIII–V族ヒ化ガリウムの量子井戸について多数の実験的研究や理論的研究が行われてきたにもかかわらず、半導体での正味冷却は実現していない。本論文では、II–VI族硫化カドミウムのナノリボン、つまりナノベルトを使い、半導体で290 Kから始めて約40 Kの正味の冷却を実現した結果を報告する。波長514 nmのポンプレーザーを使い、冷却効率として推定1.3%、冷却能として推定180 μWを得た。100 Kでは、532 nmポンピングを行うと、約15 Kの正味冷却が生じ、冷却効率は約2.0%であった。硫化カドミウムナノベルトで正味レーザー冷却が得られたのは、励起子と縦光学フォノン(LOP)の強い結合が原因であると考えられる。この結合により、ルミネセンスのアップコンバージョン過程で多数のLOPの共鳴消滅が可能になり、外部量子効率を高くでき、バックグラウンド吸収を無視できる。我々の知見からは、もう1つの方法として、励起子–LOP結合が強いII–VI族半導体を使えばレーザー冷却を実現でき、半導体を用いた光学冷却への道が開かれると考えられる。

