生化学:ヒ酸に富んだ環境でのリン酸識別の分子基盤
Nature 491, 7422 doi: 10.1038/nature11517
ヒ酸とリン酸は地球上に豊富に存在し、ほとんど同じpKa値、同じように荷電した酸素原子を持ち、熱化学半径がわずか4%しか違わないなど、性質が非常によく似ている。リン酸は必須であり、ヒ酸は有毒だが、広範囲にわたるこうした類似性のために、ニッチによってはヒ酸がリン酸に取って代わる可能性があるのではないかという疑問が生じている。しかし、ヒ酸を使用するにしても、排除するにしても、ヒ酸とリン酸とを区別するのはきわめて重要な難問である。例えば、リン酸を用いる酵素は、ヒ酸に対しても同じ結合様式と反応速度論的パラメーターを持ち、そのためヒ酸が存在すると代謝が脱共役される。タンパク質はこれら2つの陰イオンを識別可能なのか、可能だとすればどうやって識別しているのだろうか。特に、細胞のリン酸取り込み系はヒ酸に富んだ環境では難しい問題に直面する。本論文では、この過程で使われる分子機構について述べる。我々は、ヒ酸を多く含むモノ湖に生息するHalomonas GFAJ-1株のペリプラズムにある2つのリン酸結合タンパク質(PBP)など、細菌細胞へのリン酸取り込みにかかわるABC型輸送系のPBPについて調べた。調べたPBPはすべて、ヒ酸よりも少なくとも500倍高い選択性でリン酸を識別できる。例外はGFAJ-1のPBPの1つで、これはおよそ4,500倍の識別能を持ち、リン酸が制限された状態ではこのPBP遺伝子が高度に発現される。ヒ酸およびリン酸をそれぞれ結合したPseudomonas fluorescens PBPのオングストローム未満の分解能での構造から、この2つを区別する独特な結合様式が明らかになった。双極子–陰イオン相互作用や、反発的相互作用の広範なネットワークにより、4%大きなヒ酸は独特の低障壁水素結合(水素結合のアクセプターとドナー間の距離が特に短い)を歪めることがわかった。このような性質により、リン酸輸送システムは、非常にヒ酸が多い環境でも、ヒ酸よりもリン酸のほうを選択して(少なくとも103倍多く)結合することが可能となる。

