四室からなる哺乳類の心臓は2つの領域の心筋前駆細胞から発生するが、この2つの領域は、分化の時間的空間的パターンと最終的に心臓の何になるかが異なっている。第一心臓予定領域は側板中胚葉で早い時期に分化して直線状の心筒を形成し、最終的には左心室となる。第二心臓予定領域(SHF)はそれより遅く、咽頭中胚葉で分化し、心筒を伸長し、流出路と右心室の大部分を形成する。下等脊椎動物の心臓には未発達の流出路はあるが右心室はないので、下等脊椎動物にSHF類似細胞が存在するか、またその機能が何かについては、推測の域を出なかった。今回我々は、心室が1個の下等脊椎動物ゼブラフィッシュにおけるCre⁄Loxを介した細胞系列追跡と機能喪失研究によって、ltbp3(latent TGF-β binding protein 3)遺伝子の転写産物が、哺乳類の前部SHFと同じ特徴を持つ心筋前駆細胞領域の目印となることを示す直接的証拠を報告する。特に、ltbp3+細胞は、心筒形成後に咽頭中胚葉で分化し、心筒の流出極側を伸長し、流出路の3種類の心血管系細胞系列と遠位心室の心筋を形成する。ゼブラフィッシュのSHF細胞は、TGF-βリガンドの生物学的利用率を調節するタンパク質であるLtbp3の発現に加え、2つの領域の心筋前駆細胞のマーカーで進化上保存されているnkx2.5も同時に発現している。ltbp3を持たない胚では、前駆細胞の増殖が抑制されているため、ltbp3+細胞が形成するような心臓の構造は形成されない。また、低分子を利用してTGF-βシグナル伝達を阻害すると、ltbp3モルファントの表現型模写が起こるが、構成的に活性なI型TGF-β受容体を発現させると救済される。これらの知見を総合すると、ゼブラフィッシュの単一心室腔を拡大する働きをするSHF発生過程には、ltbp3-TGF-βシグナル伝達が必要なことが明らかになる。