Letter

遺伝:ニューロンにおけるL1のレトロ転移は、MeCP2によって調節されている

Nature 468, 7322 doi: 10.1038/nature09544

長鎖散在反復配列-1(LINE-1またはL1とよばれる)は非常に数の多いレトロトランスポゾンで、哺乳類ゲノムの約20%を占める。活性なL1レトロトランスポゾンは、挿入、欠失、新しいスプライス部位の生成、遺伝子発現の微調整など、さまざまな形でゲノムに影響を及ぼす可能性がある。我々は以前に、げっ歯類とヒトのニューロン前駆細胞内でL1レトロトランスポゾンが移動できることを示し、成体の脳組織にはL1が大量に挿入された証拠がみられるが、ほかの体細胞組織には認められないことを明らかにした。また、成体の海馬におけるL1の転移活性は環境の影響を受けることもわかっている。ニューロン前駆細胞で起こる体細胞性L1レトロ転移のニューロン特異性の一因は、Sox2/HDAC1リプレッサー複合体が、Wntの作用によるT細胞因子/リンパ球エンハンサー因子(TCF/LEF)転写活性化因子へと切り替わることである。この転写切り替えに伴ってニューロン分化の際にクロマチン再編成が起こり、L1の転移が一時的に促される。脳が発達する際にL1レトロトランスポゾンが活性化すると、遺伝子発現やニューロンの機能に影響が及び、脳特異的な遺伝的多様性(モザイク性)を増大させる可能性がある。L1の発現を調節する分子機構が詳しく解明できれば、L1のレトロ転位が脳の発達に果たす役割について、新たな手がかりが得られるはずである。今回我々は、メチル-CpG結合タンパク質2(MeCP2)がないと、げっ歯類のニューロンでのL1転写とレトロ転移が増加することを明らかにする。MeCP2は、DNA全体のメチル化にかかわり、ヒトの神経発達性障害に関与している。ヒト誘導多能性幹細胞やヒト組織由来のニューロン前駆細胞を用いて調べた結果、MeCP2に変異のあるレット症候群(RTT)患者ではL1レトロ転移が起こりやすくなっていることが明らかになった。これらのデータは、L1のレトロ転移が組織特異的に制御されうること、疾患と関連のある遺伝的変異がニューロンにおけるL1のレトロ転移頻度に影響する可能性があることを示している。今回の知見により、神経疾患に結びつく分子イベントに新たに複雑な一段階が加わった。

目次へ戻る

プライバシーマーク制度