Letter 神経:シナプス抑圧によってニューロンの利得調節が可能になる 2009年2月19日 Nature 457, 7232 doi: 10.1038/nature07604 ニューロンが計算デバイスとして働くには、シナプス入力や調節性入力を出力である発火頻度に変換する際に、数学的演算を実行しなくてはならない。実験的にも理論的にも、ニューロンの発火は、通常シナプス入力の総和を反映しており、これは加算を行っていることになるが、多くの計算では入力の乗算も必須である。定数の乗算により、入出力関係の傾き、つまり利得の変化が生じ、入力の変化に対するニューロンの感受性を増大あるいは減少させる。このような利得調節機能はin vivoで、方位選択性のコントラスト不変性や、注視時の感度増減、移動に影響されない視対象認識、聴覚処理、座標変換などの場面でみられる。また、理論的研究からも、こうした課題のいくつかで利得調節の必要性が指摘されている。利得調節についてはこれまでも可能性のある細胞機構が複数明らかにされているが、その多くは膜電位ノイズに依存しており、機能するための条件は限定的である。電子工学では、信号の増減に非線形成分を利用する。そこで我々は、ニューロンの利得調節にシナプスの非線形性が関与している可能性について検討した。ラット小脳の急性切片に、シナプス刺激と動的クランプ技術を適用して、顆粒細胞の利得調節を解析した。短期抑圧(STD)を起こしたシナプスを介して興奮が誘発された場合、ニューロンの利得は、抑制性コンダクタンスによって雑音とは独立に調節され、シナプス入力と調節性入力の乗算が行われた。STDがもたらす非線形性は、抑制による入出力相関の加算的変化を、乗算的利得変化に変換した。in vivoでみられるのと同様に、苔状繊維入力を高頻度連続発火させて顆粒細胞を活動させると、より大きなSTDの場合に予測されるように、より大きな抑制性利得変化が観測された。さらに、複雑な新皮質ニューロンについてシナプス統合をシミュレートすると、STDを基盤とした利得調節は、大きく広がった樹状突起をもつニューロンでも働くことが示唆される。今回の結果から、抑圧性興奮性入力を受けるニューロンは、シナプス後コンダクタンスの統合が線形であっても、強力な乗算デバイスとして働けることがわかった。 Full Text PDF 目次へ戻る