個体の性を決定する機構の解明は、依然として進化生物学の主たる難問である。雄仔と雌仔をほぼ同数産出する染色体ベースの性決定機構(遺伝子型性決定)は理論と一致するが、環境性決定(つまり胚期の環境条件が子の性を決定する;environmental sex determination[ESD])の適応的意義は主要な未解決問題である。理論モデルからは、発生環境が雌雄の適応度に異なる影響を与える場合には、遺伝子型性決定よりもESDの方が選択上有利になるはずだと予測されている(チャーノフ・ブルモデル)が、この仮説に関する実験的証拠を、ESDが最も一般的にみられる分類群である羊膜類脊椎動物で得ることは難しい。今回我々は、温度性決定の機構をもつアガマ科のトカゲAmphibolurus muricatusで、孵卵温度が雄の繁殖成功に対して雌に対する場合とは異なる影響を及ぼすことを示し、このモデルについて最初の十分な実験的証拠を提示する。我々はさまざまな温度で卵を温め、胚にホルモン操作をすることにより、性と孵卵温度の影響の混同を排除した。その上で、野外の隔離施設内でトカゲを育て、生涯繁殖成功を計測した。理論が予測するのと全く同様に、孵卵温度は雌雄の繁殖成功に異なる影響を与えていた。各性の適応度は、その性の個体が生まれる孵卵温度により最大となった。我々の結果は、羊膜類脊椎動物における温度性決定の適応的意義に関するチャーノフ・ブルモデルの明確な実験的裏付けとなる。