ヒストンのメチル化は、クロマチンの構造や遺伝子の転写、細胞のエピジェネティックな状態の調節に重要である。LSD1はリシン特異的なヒストン脱メチル化酵素で、ヒストンH3のリシン4を脱メチル化することにより転写を抑制する。LSD1複合体には複数のタンパク質が含まれ、LSD1がかかわる脱メチル化に先立つ反応の中でそれぞれが果たす役割はすべてわかっているが、植物ホメオドメイン(PHD)フィンガーを含むタンパク質BHC80(PHF21Aとも呼ばれる)だけが例外である。ブロモドメインPHDフィンガー転写因子(BPTF)やING2(inhibitor of growth family 2)ファミリーのPHDフィンガーは、メチル化されたH3K4(H3K4me3)に結合する。しかし本論文では、これとは対照的にBHC80のPHDフィンガーは非メチル化H3K4(H3K4me0)に結合し、この結合はH3K4のメチル化によって特異的に阻害されることを明らかにする。修飾されていないH3ペプチドに結合したBHC80のPHDフィンガーの結晶構造から、H3K4me0の認識の構造基盤が明らかになった。RNA阻害によってBHC80をノックダウンすると、LSD1の標的遺伝子の抑制が解除され、野生型BHC80の再導入によって抑制が元通りに回復するが、H3に結合できないPHDフィンガー変異体では抑制は起こらない。クロマチン免疫沈降法からは、BHC80とLSD1が、クロマチンへの結合に際して互いに必要とし合うことが明らかになった。これらの知見は、BHC80の働きとLSD1の働きを結びつけるものであり、修飾されていないH3K4が「ヒストンコード」の一部であることを示している。クロマチンと転写制御には、ヒストンの翻訳後修飾だけでなく、修飾のない状態のヒストン尾部が生じて認識されることも同様に重要である可能性が、これらの知見から示唆される。