Letter 始新世の北極海に一時的に存在した低塩表層水 2006年6月1日 Nature 441, 7093 doi: 10.1038/nature04692 現代の水循環学および完全結合古気候シミュレーションに基づいた研究から、古第三紀(55 〜45 Myr前)初期を特徴づける温暖な温室条件は、高緯度水域で降水量が蒸発量を上回る水循環学的サイクルの強化をもたらしたであろうと考えられてきた。しかしながら、この時期の北極海域の海洋条件をしぼり込むための野外研究による証拠は、ほとんど存在しなかった。本論文では、「北極海掘削計画」で得られた古第三紀の堆積物を解析して、始新世中期の始まり(約50 Myr前)までに、アカウキクサ属(Azola)の浮遊性シダが北極海で大量に生え、繁殖していたことを示す。アカウキクサ属、およびそれに伴って出現する大量の汽水性の有機物とシリカを含む微化石は、約80万年という期間、北極海域の表層水で一時的な低塩分化が起こったことを示している。ノルディック海全域にみられる始新世中期の海底堆積物を特徴づけるアカウキクサ属の大量の遺物は、北極海から流出しはるか南の北海まで達した低塩分水によって運ばれた集団にあたると考えられる。北極海域におけるアカウキクサ相の終了は、その水域の海面水温が約10〜13 ℃に上昇したのと同時期であり、隣接する海洋からの海水の流入による塩分と熱の供給が同時に増加したことを示している。アカウキクサ相の始まりと終了は、北極海と隣接する海洋との間の海水の交換の度合に依存していたと我々は考える。 Full Text PDF 目次へ戻る