脊椎動物の発生と機能には、NFAT(nuclear factor of activated T cell)ファミリーの転写因子(NFAT1〜4)の精密な調節が不可欠である。休止中の細胞では、NFATタンパク質は高度にリン酸化されて細胞質に存在する。また、細胞内の遊離Ca2+濃度を上昇させる刺激を受けた細胞では、NFATタンパク質はカルモジュリン依存性ホスファターゼであるカルシニューリンによって脱リン酸化され、核へと移動する。カルシニューリンによるNFATの脱リン酸化と逆の働きをするのは独特なNFATキナーゼで、その中にはカゼインキナーゼ1(CK1)やグリコーゲンシンターゼキナーゼ3(GSK3)などがある。今回我々は、Ca2+-カルシニューリンからNFATへとつながるシグナル伝達経路のさらに別の調節因子を見つけるために、ショウジョウバエのゲノム全域にわたるRNAiスクリーニングを行った。このスクリーニングが成功したのは、Ca2+に制御されるNFATタンパク質そのものは無脊椎動物では認められないものの、NFATの細胞内での位置を制御する経路(Ca2+流入、Ca2+-カルモジュリン-カルシニューリンシグナル伝達、NFATキナーゼ)が生物の種を超えて保存されているためである。このスクリーニングによって、NFATの新しい調節因子として、DYRK(二重の特異性をもち、チロシンリン酸化で調節されるキナーゼ)が同定された。DYRK1AとDYRK2はNFAT1のカルシニューリンを介した脱リン酸化に対抗するが、それは、NFATの調節ドメインにある保存されたセリン-プロリン反復配列3(SP-3)モチーフを直接リン酸化して、さらにSP-2のGSK3によるリン酸化、SRR-1(serine-rich rigion 1)モチーフのCK1によるリン酸化を誘導することによる。したがって、ショウジョウバエでの遺伝子スクリーニングは、進化上の境界を越えての適用が可能で、脊椎動物でしか発現していない転写因子の新しい調節因子を同定することができる。