Article

発生生物学:塩基編集が明らかにする、ヒト胚形成におけるNANOGの必須の役割

Nature 658, 8138 doi: 10.1038/s41586-026-10792-1

ヒトの発生において最初の細胞系譜がどのように指定され、維持されるかを理解することは、根本的に重要であり、再生医療、不妊、妊娠損失における臨床的意義も持つ。マウスモデルは、初期発生を調節する転写因子についての貴重な手掛かりをもたらしてきたが、これらの知見をヒト胚に適用するには、倫理的、技術的、生物学的な制約がある。ヒト胚における転写因子の機能研究は、ヌクレアーゼを用いたゲノム編集手法が遺伝毒性を誘発することによって妨げられてきた。今回我々は、この問題を克服するために、ABE8eによるアデニン塩基編集を適用して、エキソンのスプライス供与部位を精密に標的とすることで、ヒト胚において発生調節因子NANOGのスプライシング異常と機能的ノックアウトを達成した。この手法は遺伝毒性を誘発せず、オフターゲット編集も限定的であった。NANOGの喪失は、多能性を持つ胚盤葉上層の指定を妨げ、細胞は代わりに、原始内胚葉(卵黄嚢)あるいは栄養外胚葉(胎盤)の転写プログラムを示す方向へと分化した。NANOGを編集したヒト胚でも原始内胚葉への分化が維持されたことは、マウスとは異なる機能的補償の存在を明らかにしており、ヒトの発生を直接調べることの重要性をはっきりと示している。我々の知見は、ヒトの多能性と胚盤葉上層の指定におけるNANOGの必須の役割を実証するとともに、ヒトの発生の機能的検証における塩基編集の有用性を浮き彫りにしている。

目次へ戻る

プライバシーマーク制度