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細胞生物学:腸細胞ではミトコンドリアの機能不全が食餌由来脂質の処理を停止させる

Nature 625, 7994 doi: 10.1038/s41586-023-06857-0

食餌由来の消化された脂肪は腸細胞に取り込まれ、小胞体中で組み立てられてキロミクロン前駆体となり、これがゴルジ体に輸送されて成熟し、その後循環系へと分泌される。食餌中脂質の処理にミトコンドリアがどのような役割を果たしているかは不明である。今回我々は、腸細胞のミトコンドリアが機能不全になると、キロミクロンの産生が阻害され、食餌中の脂質が末梢の器官に輸送されなくなることを明らかにする。腸細胞のミトコンドリアのアスパルチルtRNA合成酵素DARS2、呼吸鎖の成分SDHAあるいはアセンブリー因子COX10を特異的に除去したマウスでは、近位小腸の腸細胞に大きな脂肪滴(LD)の蓄積が見られ、うまく成長できなかった。DARS2を欠失した腸細胞に無脂肪食を与えるとLD形成が抑制されることから、蓄積した脂質の大半が消化された脂肪由来であることが示された。さらに、代謝追跡研究によって、腸上皮細胞中のDARS2が欠失したマウスでは、末梢器官への食餌由来脂質の輸送が阻害されていることが判明した。DARS2の欠失は、成熟キロミクロンの明らかな欠乏と同時に、近位腸細胞でのゴルジ体の分散進行を引き起こした。これによって、ミトコンドリアの機能不全によって小胞体からゴルジ体へのキロミクロンのトラフィッキング障害が起こり、これがさらに、細胞質中の大きなLDへの食餌由来脂質の貯蔵につながることが示唆される。これらの結果を総合することにより、腸細胞での食餌由来脂質の輸送にミトコンドリアが果たす役割が明らかになった。この知見は、ミトコンドリア病患者に見られる腸の異常の解明に関連する可能性がある。

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