がん:大腸腫瘍細胞死はパラクリンによるP2X4刺激を介してmTOR依存を引き起こす
Nature 612, 7939 doi: 10.1038/s41586-022-05426-1
固形がんでは、細胞死と細胞増殖が動的にバランスを取ることにより、腫瘍の維持と増大が継続的に確保されている。がん細胞のアポトーシスが増加すると、腫瘍微小環境内の細胞のパラクリン(傍分泌)活性化が起こり、腫瘍増殖を支える組織修復プログラムを発動することが分かってきた。しかし、死にゆくがん細胞が隣接する腫瘍上皮に及ぼす直接的な影響、またこのようなパラクリン効果が治療抵抗性につながるかどうか、その仕組みは明らかになっていない。今回我々は、患者由来の大腸腫瘍オルガノイドで化学療法によって誘導される腫瘍細胞死がATP放出を引き起こし、これが隣接するがん細胞中でP2X4(別名P2RX4)を活性化することを示す。P2X4の活性化は、mTOR依存性のプログラムを介して隣接するがん細胞の生存を促すため、生き残った腫瘍上皮細胞はmTOR阻害に感受性となる。化学療法後に生き残った上皮細胞で誘導されたmTORに対する強い依存性は、隣接細胞の死に応答して起こる活性酸素種の産生とそれによるDNA損傷増加によるものである。従って、P2X4受容体の阻害、またはmTORの直接的な遮断は、S6リン酸化の誘導を防止し、化学療法と相乗的に働いて、活性酸素種による大量の細胞死とどちらか片方だけの場合には見られないような顕著な腫瘍退縮を導く。逆に、活性酸素種が除去されれば、がん細胞はmTORへの強い依存性を示さない。まとめると今回の知見は、死にゆくがん細胞は、生き残る隣接細胞に抗アポトーシスプログラムを発動させ、このプログラムへのそれまでなかった強い依存性を導くことを示している。化学療法とこうした抗アポトーシスプログラム遮断を組み合わせた併用療法は、P2X4を発現している上皮腫瘍に対する新しい治療の機会を作り出すと考えられる。

