がんゲノミクス:ヒトがん細胞でAPOBEC3が変異を誘発する機構
Nature 607, 7920 doi: 10.1038/s41586-022-04972-y
シトシンデアミナーゼのAPOBEC3ファミリーは、がんで最も広く見られる変異シグネチャーのいくつかに関係するとされている。しかし、内在性APOBEC3酵素とヒトがんゲノムで見られる変異シグネチャーとの因果関係はまだ立証されておらず、APOBEC3による変異誘発の機構はいまだにほとんど分かっていない。今回我々は、APOBEC3による変異誘発の機構を調べるため、APOBEC3に関連した変異シグネチャーが時間とともに自然に生じるヒトがん細胞系列で、それに関連している遺伝子を欠失させた。乳がん、膀胱がん、リンパ腫の計251のがん細胞系列クローン由来の全ゲノム塩基配列でクラスター形成しているシグネチャーとクラスター形成していないシグネチャーを解析したところ、APOBEC3Aの欠失によってAPOBEC3に関連した変異シグネチャーが減少することが判明した。APOBEC3AとAPOBEC3Bを両方欠失させると、さらにAPOBEC3関連変異数が減少したが、消失することはなかった。APOBEC3Bを欠失させると、一部の細胞系列ではAPOBEC3Aタンパク質のレベルと活性が上昇し、APOBEC3Aを介した変異誘発も増加した。APOBEC3が関わるトランスバージョン変異にはウラシルグリコシラーゼUNGが必要だったが、損傷乗り越えポリメラーゼREV1が失われると全般的な変異数が減少した。総合するとこれらのデータは、ヒトがん細胞で広く見られる変異シグネチャーが内在性のAPOBEC3デアミナーゼによって生じていることを示す直接的な証拠と言える。今回の結果は、APOBEC3Aがこれらの変異の主要なドライバーであることを明らかにしており、APOBEC3BはAPOBEC3Aに依存した変異誘発を抑制する一方で、独自に少数の変異をもたらすことを示していて、APOBEC3の活性を異なった変異シグネチャーへと変換する機構を詳細に解明している。

