Letter

生物地球化学:中国の水質回復のための窒素管理

Nature 567, 7749 doi: 10.1038/s41586-019-1001-1

窒素循環は人間活動によって根本的に変化した。中国は世界の窒素肥料の3分の1近くを消費している。過剰な施肥や、家畜、家庭、産業界の排出源からの窒素排出量の増加は、広範囲にわたる水質汚染を引き起こしてきた。局地的な水質の効果的な管理には、一様でない環境における窒素の「限界」を定量化することが重要である。今回我々は、水質の観測結果と農業その他の排出源からの窒素排出量のシミュレーションを組み合わせて用いて、中国全土の水域における1955〜2014年の窒素排出の空間的パターンを推定した。その結果、1980年代半ばには大半の省で地表の水質基準の限界値(1.0 mg N l−1)を超えており、淡水への現在の人為起源窒素の排出速度(14.5 ± 3.1 Mt N yr−1)が窒素排出量に推定される「安全」しきい値(5.2 ± 0.7 Mt N yr−1)の約2.7倍であることが見いだされた。廃水の処理を通して汚染を抑制する現在の取り組みと、農地窒素管理の改善によって、この状況を部分的に改善することができる。2014年には、家庭廃水の処理によって0.7 ± 0.1 Mtの正味排出量が削減されたが、高い財政コストやエネルギーコストを必要とした。農地の窒素管理を改善すれば、さらに2.3 ± 0.3 Mt N yr−1削減できる可能性がある。これは、淡水への排出量超過の約25%に相当する。中国で清浄な水環境の回復を実現するには、抜本的な改革を行い、全国の栄養素再循環率を現在の平均36%から約87%まで引き上げることがさらに必要となるが、これはかつての中国農業の標準的なレベルである。野心的ではあるが、そうした高レベルの窒素再循環は、技術的には達成可能であり、必要な資本コストは約1000億米ドル、運転コストは年間180億~290億米ドルと推算され、同時に廃水の再生利用による灌漑や、環境の質と生態系サービスの改善などの利益をもたらす可能性もある。

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