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神経科学:海馬内に平行して生じる安定な記憶エングラムと動的な記憶エングラム

Nature 558, 7709 doi: 10.1038/s41586-018-0191-2

日常の生活で、未来の行動は過去の経験の記憶に基づいて計画される。こうした記憶は、「エングラム」と呼ばれる特定のニューロン集団の活動で表現される。神経エングラムは、学習中にシナプスの変化によって形成され、エングラム再活性化により記憶した経験が表現される。意識的な記憶のエングラムは、まず数日間海馬内に保存され、その後皮質の諸領域に移される。海馬歯状回では、顆粒細胞が嗅内皮質からの豊富な入力を、疎な出力に変換し、これを海馬CA3領域の錐体細胞が高度に相互結合しているネットワークに送り込む。この過程がパターン分離を可能にすると考えられている(ただし、異論もある)。CA3錐体ニューロンは、海馬からの出力領域であるCA1に投射する。海馬での記憶の一時保存という考えと一致して、CA1およびCA2のエングラムは時間経過とともに安定することはない。それにもかかわらず、海馬歯状回のエングラムを再活性化すると、数週間後でも人工的な記憶の再生を誘導できる。この見かけ上の矛盾を解決するには、学習中ずっと歯状回顆粒細胞から記録をとり続ける必要があるが、これまで1日を超えて記録がとられたことはない。今回、頭部を固定したマウスに対して持続的な二光子カルシウム画像化法を用い、バーチャル環境で数日間にわたる空間記憶課題を行っている間、海馬の全ての主要亜領域のニューロン活動を記録した。CA1–CA3錐体ニューロンは、今回の行動課題で学習した空間的景観について、正確で高度に文脈特異的だが絶えず変化する神経表現を示したが、歯状回顆粒細胞は、場所や文脈への特異性は低いが、数日にわたって変化しない空間符号を保持した。この結果は、3シナプスループでのシナプスの重みは常に再配置されていて、歯状回が提供する安定な空間符号に基づく下流海馬領域での動的な表現形成を支えていることを示唆している。

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