生物地球化学:ツンドラによる大気中の水銀元素の吸収が北極域の水銀汚染を駆動する
Nature 547, 7662 doi: 10.1038/nature22997
人為的な活動は、北極域における大規模な水銀(Hg)汚染をもたらしている。「大気中の水銀枯渇事象(AMDE)」を通した海塩によって生じるHgの化学循環と、降水を介した湿性沈着が、酸化状態のHg(Hg(II))の北極域への供給源であると示唆されている。しかし、沿岸域の外側でAMDEが生じていることを示す証拠は乏しく、正味のHg沈着に対するAMDEの重要性は疑問視されている。さらに、北極域における湿性沈着の測定からは、降水を介したHg沈着が地球全体でも最低レベルであることが示されており、北極域における高いHg負荷の供給源に疑問が投げ掛けられている。本論文では、Hg沈着の質量収支に関する包括的な研究を示し、内陸部の北極ツンドラのHgの大半(約70%)は、気体のHg元素(Hg(0))の沈着に由来し、降水やAMDEを介したHg(II)の沈着の寄与はわずかであることを示す。我々は、全球大気に遍在する形態であるHg(0)の沈着は年間を通して生じており、夏季には植生によるHg(0)の吸収を通して増強されることを見いだした。ツンドラによる気体Hg(0)の吸収は土壌のHg濃度を高め、Hg量は温帯の土壌に見られるレベルを大きく上回る。大気、雪塊、植生、土壌におけるHg安定同位体の同時測定から、ツンドラへの供給源としてHg(0)が支配的であるという今回の知見が裏付けられた。内陸から沿岸域へのトランセクトから得られたHgの濃度データと安定同位体データは、土壌中の高いHg濃度は一貫してHg(0)に由来することを示しており、北極ツンドラが全球的に重要なHgシンクである可能性が示唆される。さらに我々は、ツンドラの土壌における高いHg濃度が、北極の河川が毎年大量のHgを北極海へ輸送していることの説明になり得ると提案する。

