生態生理学:植物プランクトンは乱流の刺激に応答して移動戦略を能動的に多様化させることができる
Nature 543, 7646 doi: 10.1038/nature21415
海洋の植物プランクトンは動的な環境に生息し、こうした環境では、種の適応度や遷移、選択は、乱流と、栄養塩および光の利用可能性によって形作られる。植物プランクトンの多くの種は運動性で、夜間は栄養塩の豊富な深層を、日中は光量の多い表層を利用するために日周鉛直移動を行う。この移動戦略の乱流による混乱は、乱流条件に転じた際に運動性の種と非運動性の種の間で遷移が起こる重要な原因の1つだと考えられている。しかしこの古典的な見方は、運動性の種が乱流の刺激に対して能動的に応答し、乱流の強い層を避けている可能性を無視している。本論文では、ラフィド藻類および渦鞭毛藻類をはじめとする植物プランクトンが、コルモゴロフスケールの渦による鉛直循環に特徴的な流体力学的刺激に応答して、移動戦略を能動的に多様化させる能力を有することを示す。海洋の乱流に典型的な時間スケールおよび統計量の反復的鉛直循環を経験すると、上向きに遊泳していた集団は速やかに(5~60分で)2つの亜集団に分かれ、一方は上方へ、もう一方は下方へ遊泳するようになった。有害藻類ブルームを形成するラフィド藻Heterosigma akashiwoの定量的形態分析を、細胞力学モデルと併用することにより、こうした挙動が細胞の前後非対称性の調整に伴うものであることが明らかになった。細胞の優先的な遊泳方向を反転させるのに必要十分な調節の規模が微小であることは、植物プランクトンが移動挙動に対して行うことのできる制御のレベルの高さを表している。鉛直循環による強い細胞ストレス、および強い乱流が運動性の植物プランクトンに対し概して有害な影響を及ぼすことが観察されており、合わせると以上の結果は、H. akashiwoの、集団内で移動方向を多様化させることによって乱流層を避ける可能性を高めるという、進化的両賭け戦略を示唆するような能動的適応を示している。この移動挙動は、運動性植物プランクトンと非運動性植物プランクトンとの流体力学的ニッチの境界を緩和するものであり、海洋の植物プランクトンにとって流体力学的刺激に対する迅速な応答が重要な生存戦略であることを浮き彫りにしている。

