化学:分子ナノリングにおける芳香族性環電流と反芳香族性環電流
Nature 541, 7636 doi: 10.1038/nature20798
[4n + 2]個の非局在電子の回路がある芳香族分子と、 [4n]個の非局在電子の回路がある反芳香族分子には、分子の外周部を巡る環電流が存在する。芳香族分子の環電流は、環内部に外部磁場に逆らう磁場を生成する方向に流れる(「ジアトロピック」電流)が、反芳香族分子の環電流は、その逆方向に流れる(「パラトロピック」電流)。金属や半導体のリングにおいても、電子波動関数の位相コヒーレンスがリングの外周で維持される場合、よく似た永久電流が生じる。非分子リングにおける永久電流は、リングを通過する磁束に応じて向きが変わるため、外部磁場を変えるだけでジアトロピック(「芳香族性」)からパラトロピック(反芳香族性)に変化させることができる。分子系と同様に、永久電流の向きも電子の数に依存する。分子リングの環電流と非分子リングの環電流の関係は、よく分かっていない。その理由の1つは、それらが異なるサイズ領域で研究されていることである。つまり、最大の芳香族分子の直径が約1 nmであるのに対して、永久電流が観測されている微細加工リングの直径は20~1000 nmなのである。メゾスコピックリングにおける芳香族性と量子コヒーレンス効果の関係を理解することが、中間サイズの分子の環電流を研究する動機付けとなる。今回我々は、核磁気共鳴分光法と密度汎関数理論を用いて、ポルフィリンを6つ有する直径2.4 nmのナノリングテンプレート錯体が、4+酸化状態(π電子80個)で反芳香族性、6+酸化状態(π電子78個)で芳香族性となることを示す。この反芳香族状態は、不対電子が存在しないにもかかわらず、巨大な常磁性磁化率を示した。今回の研究は、大環状分子では、酸化状態を調節して構成要素の局所環電流を抑制することによって全体の環電流を増大できることを実証している。室温で円周7.5 nmの分子の外周に環電流が生じるという発見は、驚くほど大きな分子骨格において量子コヒーレンスが持続し得ることを示している。

