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ウイルス疫学:1970年代および「ペイシェント・ゼロ」のHIV-1ゲノムで明らかになった北米での初期HIV/AIDSの歴史

Nature 539, 7627 doi: 10.1038/nature19827

男性との性交経験のある北米の男性たちの間でHIV-1グループMサブタイプBが出現したことは、HIV/AIDSパンデミックの重要な転換期となった。系統発生学的研究から、1970年代を通して米国ではサブタイプBの潜在性流行があったこと、そしてカリブ海諸国ではもっと以前から存在していたことが示唆されている。しかし、AIDSが認識された1981年よりも後に得られた部分的HIV-1ゲノムに基づく、このような時間的・地理的な推測についてはいまだに議論が続いており、このウイルスの米国内での最初期の移動についても分かっていない。我々は、1970年代の2000以上の血清試料の血清学的スクリーニングを行い、劣化した保存試料からウイルスRNAを回収するための高感度の手法を開発した。本論文では、1978~1979年の米国の血清試料から得たコード領域が完全な8つのゲノムについて報告する。これらは、これまで得られたものの中で最も古いHIV-1グループMゲノム9つのうちの8つである。この初期の完全ゲノムの「スナップショット」から、米国のHIV-1のエピデミックでは、1970年代に広範な遺伝的多様性があったことが明らかにされただけでなく、米国のHIV-1はすでに存在していたカリブ海諸国でのエピデミックから出現したとする強力な証拠も得られた。ベイズ法による系統発生解析で、ウイルスは1970年頃に米国に移ってきたと推定され、事後確率0.99で米国の祖先型ウイルスの位置がニューヨーク市と特定され、これが初期の米国のHIV/AIDS多様化の重要なハブであったことが強く示唆された。個体群成長のロジスティック合祖モデルから、感染者数の倍増期間は米国では0.86年、カリブ海諸国では1.12年であることが明らかになり、各地域で初期に迅速な拡大が起こったと考えられる。より最近のデータとの比較で、これらの知見の多くが保存試料の完全ゲノム塩基配列なしでは得られないことが分かる。さらに「ペイシェント・ゼロ」として知られる患者からもHIV-1ゲノムを回収したところ、この男性が米国あるいはサブタイプB全体の最初の症例であったとする説の生物学的証拠も歴史的証拠も見いだせなかった。我々は、これらの進化的手掛かりから、この説の起源と永続について論じる。

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