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神経発生学:チョウの色覚を豊かにした3通りの確率的選択を支える分子機構

Nature 535, 7611 doi: 10.1038/nature18616

チョウは、自然界に適応するために色覚に強く依存している。ほとんどの種は、さまざまな色感受性ロドプシンタンパク質を発現する3タイプの個眼を持ち、これらは網膜全体に確率的に分布している。キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)の網膜には個眼のタイプは2つしかなく、R7視細胞が転写因子Spinelessを発現するかしないかという2通りの確率的決定によって、個眼の運命が制御されている。今回我々は、チョウがどのような仕組みで2タイプではなく3タイプの個眼の確率的分布を作り出すのかを調べた。このような個眼分布によって、チョウでは網膜のモザイクの多様性が増し、比較できる色数が増え、色覚の範囲が広がる基盤を生み出している。調べたところ、ナミアゲハ(Papilio xuthus、アゲハチョウ科)、ヒメアカタテハ(Vanessa cardui、タテハチョウ科)は個眼それぞれに、第2のR7様視細胞を持つことが明らかになった。2種のR7様視細胞はそれぞれ独立してSpinelessが確率的に発現するため、青感受性のロドプシン(SpinelessONの場合)か紫外線(UV)感受性ロドプシン(SpinelessOFFの場合)が発現する。ナミアゲハの場合、この2種のR7様視細胞における青/青、青/UV、UV/UVという感受性の選択が、残りの視細胞における他のロドプシンの発現と連動しており、それらが合わさって個眼の3つのタイプが決まる。CRISPR/Cas9を用いてspinelessをノックアウトすると、R7様視細胞が青感受性にならなくなるため、網膜はUV/UV型の個眼が均一に分布する状態になり、他の連動した特性にも、この個眼タイプに相当した変化が生じる。このようにチョウでは、Spineless発現の考え得る3通りのパターンが個眼の3つのタイプを決定する。この発生戦略のおかげで、ナミアゲハでは赤感受性ロドプシンが1個余分に備わるようになり、より多様な視細胞がそろい、豊かな色覚の進化が可能になった。2つの確率的選択を局所的に組み合わせるという意外なほど単純なこの仕組みは、発生の結果の多様性を増すための一般的な手段なのかもしれない。

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