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生態学:生物多様性は極端な気象イベントに対する生態系の生産力の抵抗性を強化する

Nature 526, 7574 doi: 10.1038/nature15374

極端な気象イベントの頻度が世界的に上昇しているが、生物多様性がそのような気象イベントの生態系に対する脅威を緩和しているのかどうかは明らかにされていない。初期の研究からは、多様性の高い草原植物群落の生態系の生産力は、多様性に欠ける群落と比較して、抵抗性が高く(干ばつ時の変化が小さい)、復元力も高い(干ばつ後の回復が迅速である)ことが示唆されている。しかし、その後の実験による検証で得られた結果はさまざまである。今回我々は、草原の植物多様性を操作した実験区46か所のデータを用いて、生物多様性が、極端な気象イベントに際した抵抗性(レジスタンス)やその後の復元力(レジリアンス)を生産力にもたらすのかどうかを調べた。その結果、気象イベントの種類(豪雨か干ばつか)や強弱、時間的な長さの違いにかかわらず、幅広いイベントに対して、生物多様性が抵抗性を強化したことが分かった。全ての実験区および気象イベントにわたり、種数が1~2の低多様性群落の生産力は気象イベント中に約50%も変化した。一方、種数が16~32の高多様性群落の生産力はより抵抗性が高く、変化は約25%にとどまった。生態系の生産力は、群落の多様性の高低によらず、それぞれの気象イベントから1年で通常レベルへと回復、もしくはそれを超過する場合が多かったことから、生態系の復元力は生物多様性にほとんど依存していないことが分かった。今回の結果は、生物多様性が気象イベントに対する抵抗性を強化することで、生態系の生産力とそれに依存する生態系サービスを安定化していることを示唆している。従って、生物多様性の喪失を招く人為的な環境変化は、主として気象イベントに対する生態系の生産力の抵抗性を変化させることにより、生態系の安定性やそれを強化するのに必要な生物多様性の回復を損なうと考えられる。

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