ヒトは、体の解剖学的構造、生理、および行動のさまざまな側面で、ほかの動物と異なっているが、ヒト特異的形質の多くについて、遺伝子型の基盤はいまだに明らかにされていない。最近行われている全ゲノム比較解析によって、ヒトでアミノ酸が高率で変化していたり発現量が大きく異なったりしている遺伝子や、塩基対が高速で変化している非コード塩基配列を発見できるようになってきた。調節領域の変化は特に、生存能力を維持したまま表現型に影響を与えやすく、ほかの種では、関心を持たれる進化的差異の原因となっていることが知られている。今回我々は、ヒトで調節領域に大きな変化を生じている可能性が特に高い分子的事象を明らかにした。それは、チンパンジーやほかの哺乳類では高度に保存されている塩基配列の、完全な欠失である。そのような欠失がヒトで510か所確認され、それらは、ほぼ例外なく非コード領域に存在していて、ステロイドホルモンシグナル伝達および神経機能に関与する遺伝子の近傍に多かった。欠失の1つは、ヒトのアンドロゲン受容体(AR)遺伝子からの感覚毛および陰茎棘のエンハンサーの除去で、この分子的変化は、ヒト系統のアンドロゲン依存的な感覚毛および陰茎棘の解剖学的喪失と相関している。また別の欠失として、腫瘍抑制遺伝子GADD45G(growth arrest and DNA-damage-inducible, gamma)近傍の前脳脳室下帯エンハンサーが失われており、その喪失は、ヒトの特定の脳領域の拡張と相関している。したがって、組織特異的エンハンサーの欠失は、ヒト系統の形質の喪失あるいは獲得を伴う場合があり、ヒトの進化的分岐で重要な役割を担うと以前から考えられてきた、いくつかの調節領域変化および不活性化事象の具体的な例を示している。