Letter 医学:アブシジン酸はトキソプラズマ原虫の脱出と分化を制御する 2008年1月10日 Nature 451, 7175 doi: 10.1038/nature06478 カルシウムはアピコンプレックス門に属する寄生虫の運動、タンパク質分泌、宿主細胞への侵入および脱出を含む多くの重要な過程を制御する。動物細胞や植物細胞に比べて、寄生虫のカルシウムシグナル伝達を制御する分子機構はまだよくわかっていない。今回我々は、植物ホルモンのアブシジン酸(ABA)の産生が、ヒト日和見感染病原体で、アピコンプレックス門に属する寄生虫であるトキソプラズマ原虫(Toxoplasma gondii)においてカルシウムシグナル伝達を制御することを示す。植物では、ABAは環境ストレス応答、胚発生、および種子の休眠を含む多くの重要な過程を制御する。ABAはセカンドメッセンジャーのサイクリックADPリボース(cADPR)の産生を誘導し、植物では、このcADPRが細胞内カルシウム貯蔵庫から細胞質内へのカルシウム放出を制御する。cADPRはまた、寄生性原虫であるトキソプラズマ原虫での細胞質内へのカルシウム放出も制御するが、この経路の分子基盤はこれまでの研究では明らかではない。我々は、トキソプラズマ原虫で外因性に加えたABAがcADPRの産生を誘導し、カルシウム依存性のタンパク質分泌を促し、感染宿主細胞からの原虫の密度依存的な脱出を誘発することを見いだした。高速液体クロマトグラフィーを用いた精製およびガスクロマトグラフィー質量分析により、原虫内で内因性にABAが産生されることが確認された。ABA生合成の阻害薬フルリドンにより生合成を選択的に阻害すると、原虫の宿主細胞からの脱出が遅延し、原虫の増殖が遅く、休止状態となるシストへの分化が誘導された。したがって、ABAを介するカルシウムシグナル伝達は、病原性や感染性において中心的役割を果たす、急性感染を起こす増殖型と慢性感染型のどちらへ移行するかを決定する分化スイッチを制御する。ABA生合成経路はおそらく、アピコプラストと呼ばれる非光合成色素体として保持されている藻類由来の細胞内共生体と共に獲得されたものと考えられる。ABA生合成の特異的阻害薬がマウスモデルでトキソプラズマ症を予防できることで示されるように、この経路の植物類似の性質は治療に応用できるかもしれない。 Full Text PDF 目次へ戻る