方向の決まった移動は個々の細胞と細胞集団のどちらにもみられるが、誘導された移動の研究は、ほとんどが単純な環境での単一細胞の移動に関するものである。細胞集団に対する集団的誘導については、発生や癌転移に重要な意味をもつにもかかわらず、ほとんど解明されていない。神経冠細胞と神経前駆細胞は個々の細胞が緩やかにまとまった流れとなって移動するが、魚類の側線の細胞やショウジョウバエ気管の細胞や境界細胞塊は、もっと緊密にまとまった集団として移動する。今回我々は、ショウジョウバエの境界細胞を使って、集団的な誘導の仕組みについて調べ、境界細胞は異なった誘導機構の働きにより2段階に分かれて移動することを報告する。遺伝的解析と生体画像化法を組み合わせることにより、移動の第1段階には、細胞が極性をもつふるまいをすることが極めて重要だが、第2段階では集団としての動的な挙動が中心となることが明らかになった。PDGF-、VEGF-関連受容体と上皮増殖因子受容体は2つの段階の両方で作用するが、それぞれの段階で異なったエフェクター経路を用いている。第1段階にはMbc(myoblast city、DOCK180とも呼ばれる)-ELMO(engulfment and cell motility、Ced-12とも呼ばれる)経路が必要で、誘導は、先導する細胞内でのシグナル伝達が細胞内のどこで起こるかによって決まる。第2段階では、マイトジェン活性化プロテインキナーゼとホスホリパーゼCγが重複して働き、細胞塊は細胞間のシグナルレベルの違いを利用して移動することがわかった。したがって、細胞集団の集団的挙動の誘導には、多細胞レベルでの情報処理が活用されている。